07_Kyoto2019のWiki解説①(Design)
こんにちは、雑草です。7記事目です。
今回も前記事↓に続き
弊チーム後輩の需要を考え、wikiの読み方の解説記事を書きたいなと思います。
※iGEMのwikiとはプロジェクトの全てをまとめたチームごとのホームページのようなもので、学生が自ら作成します。
テーマ決めの際には過去プロジェクトの研究をやるのが一般的で、特に金メダルを受賞した過去チームのwikiはよく読まれます。
1記事目から5記事目までは毎日更新していたのですが、まとまりのある記事にしたかったので今回少し時間あきました。
(ほんとはDescriptionとDesignを1記事にしようと思ったけど長くなりそうなので分割しました。)
Descriptionの記事をまだ読んでない人は是非そちらから読んでいただければ幸いです。
https://2019.igem.org/Team:Kyoto
に沿って、なるべくシンプルにやっていきたいと思います。
Twitterで京大さんのご許可も得られたので、よりいい記事にできるようがんばります。
これまで同様、見やすさや利用のしやすさから、今後は原則すべての記事を同じ形式で書いていきたいと思います。
1.目的
2.手段
3.内容
4.メモ(箇条書き)
【目的】
iGEM初心者のB1を想定し、wikiの構成や読み方をざっくり習得する。
【手段】
実際に2019年のwiki(Kyoto)を読んでいく。
※B1が初見でわからなそうな単語の説明も付けました。
【内容】
この記事ではDesignをやります。
まとめ:Designはたぶんwikiの中で一番大事。プロジェクトのコア。
今回は前回よりやや長くなると思いますが、なるべくスッキリさせるので最後まで一緒に見ていってください!
A~Hの番号を振った部分についてそれぞれ説明をしていきます。
じゃあさっそくいきましょう。
まず、黄色のマーカー部分。
Descriptionではあっさりざっくりでしたが、Designでは踏み込んだdetail(詳細)とresearch background(研究背景)について話しますよと書いてありますね。
A:色々な種類のプラスチックに結合するタンパク質リスト
Descriptionで7種類のプラスチック結合タンパク質をEncapsulinの表面からにょっきりさせたというお話が出てきましたが、そのタンパク質の個性を1つずつ紹介しています。
利用したい人からすれば自分の目的のプラスチックにSONOBEが有効か知りたいわけですから、重要な情報だと言えますね。
読むとわかりますが、論文が引用されています。
[3]とか書いてあるのがみんなそうです。
B1はまだなじみがないと思いますが、学生実験レポートでも必ずつける「参考文献リスト」とそれぞれ対応した数字で、どの文献からこの内容を引用してきたかわかるようにしています。これは大事なことです。
さらに言えば、初心者が注意すべきなのはKyotoチームが
「自分たちが必要とする論文のみをいきなり探り当てた」わけではないという点です。
ここに挙げられている何倍もの関連論文を読んで、使えるものだけが選ばれて掲載されていると考えるのが常識です。
つまり、私たちがiGEMの下調べをする際もたくさん論文を読む必要があるということです。
経験者にとっては超当たり前のことですが、下調べにかかる時間は本当に低く見積もられがちなので、自戒を込めてあえて書きました。
BとC:Encapsulinというタンパク質がどの生物由来か、本来生体内ではどういうふうに使われているか
iGEMで使われるタンパク質は、通常自然界に存在する生物が作り出すタンパク質です。
ここではEncapsulinの由来や性質について記述されていますね。
「Spomtaneously(自発的に)かご型のポリマーを作る」という、SONOBEに重要なポイントも説明されています。
ちなみに自分の記憶では、iGEMで提出が必須のSafety Formでもどの生物由来かの説明が求められていました。
C:【重要】改良されたTmEncap(Themotoga maritimaという微生物に由来するEncapsulin)は「目的のタンパク質をカプセルの表面ににょっきりできる」し、「タンパク質をカプセル内に取り込むこともできる」
黄色マーカーの部分がSONOBEの機能にとって不可欠な性質を短く明確に説明しています。
D:PDBとは
PDBは超有名なタンパク質データベースの名前です。
Protein Data Bank = PDB なのでそのままですね。
・iGEMでの主な使い道は、タンパク質のきれいな図をつくることかなと思います。
PDBでググれば英語サイト(本家)と日本語サイトが出てきます。
日本語サイトの方は厳密には公式ではなく、RCSB PDBのサポートを受けてやってますというような文言があります。
まあ使い勝手は日本人ならPDBjの方がいいのではないかと思いますが、自分はiGEMやってたくせに有機合成の研究室にいるので生物系研究室の人と比べるとPDBは全然活用できてません。
PDBについてはまた別記事で書ければと思います。
RCSB PDB: Homepage (英語)
Protein Data Bank Japan - PDB Japan - PDBj (日本語)
使い方のチュートリアルなどはPDBjにありますので、見てみるといいと思います。
ついでに紹介しておきたいのがNCBIです。
iGEMではむしろこっちのほうがメインで使うデータベースかなと。
・NCBIの使い道は、目的タンパク質のアミノ酸配列を調べることです。
National Center for Biotechnology Information (NCBIのサイト)
非常にざっくり言えば
アミノ酸配列がわかれば→コドン表を使ってDNAに直せますので、「欲しいタンパク質を作らせるDNA」がわかるということです。ここ重要ですね。
高校で生物取ってなかった人は「セントラルドグマ」でググりましょう。
注意すべきなのは、実際にはコドン表の中でも「大腸菌はこのアミノ酸をコードするときはこのコドンばっかり使う、こっちは全然使わない」みたいな偏りがあることです。
NCBIの使い方も別記事で。
E:具体的にどうやってEncapsulinのカプセルの表面に目的タンパク質をにょっきりさせているかの説明
基礎事項として、Encapsulinはタンパク質ですから、アミノ酸が長くつながったポリペプチド鎖がフォールディング(つまり色々な都合で曲がって)できています。
ここの記述によると、
Encapsulin138番目のアミノ酸はカプセルの外側にループ(わっか)を作ってにょっきりします。
そしてここからが肝要ですが、Descriptionでも「プラスチック結合タンパク質はSpy-TagとSpy-Catcherを介してEncapsulinに結合している」と言っていましたね。
ここでは138番目のアミノ酸をSpy-Tagに置換して、まずSpy-Tagをカプセル表面ににょっきりさせます。するとこのSpy-Tag置換したEncapsulinとSpy-Catcherの間にも結合ができるそうです。
F:プラスチック結合タンパク質をSpy-Catcherと融合させた
ここの図が抜けててごめんなさい。
図を用意するとき、pdf化してからSnapping Toolを使って切り抜くというかなりアナログな方法を用いたのですが、pdf化したときにWi-Fiが弱かったみたいですね……。
改めて貼ります。
京都さん、謹んで切り抜かせていただきました……。
図を見れば一目瞭然ですね。
先ほどまでの話で
・EncapsulinにSpy-Tagをつけた
・Spy-TagとSpy-Catcherの間には結合ができる
まで出てきましたが、さらに
・Spy-Catcherに目的のプラスチック結合タンパク質をつけた
ということです。
EncapsulinーSpy-TagーSpy-Catcherープラスチック結合タンパク質
という風にすべてがつながって、SONOBE完成!!!というわけですね。
G:His-Tagはタンパク質のアッセイを行うために必要
無事に大腸菌などに目的タンパク質を発現(作らせる)ことができたら、今度は「本当に目的タンパク質ができています!」ということを証明する必要があります。
つまり作らせたタンパク質を
1)単離して
2)性質を定量的に確かめる実験(=アッセイ)を行う
という操作をおこなうということです。
His-Tagはこの1)単離する に必要なアミノ酸配列です。
長くなりますので別の記事に分けますが、His-Tagがついているタンパク質は容易に単離することができます。
なぜ「単離」がそんなに大切なのかというと、大腸菌を始めiGEMで使われる菌たちは「目的タンパク質以外にもさまざまなタンパク質を大量に作るから」です。
単離しなければ、色んなタンパク質がまざった状態なので、とてもその性質を調べる実験は出来ません。
ここでいう性質を調べるというのは、
分子量や等電点などそのタンパク質の性質を定量的に示す固有の値が文献値(他の人によって厳密に確かめられ、論文や化学大辞典、データベースなどに登録されている信頼性の高い値)と一致することを確かめるということです。
よく一致したら、「確かに狙ったタンパク質ができているようだ」と言えます。
H:Reference(参考文献)
いつもより長い記事をここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もうほとんどおしまいです。
最後は参考文献についてです。
参考文献は学生実験のレポートに始まり、卒業論文や有名雑誌にアクセプトされる論文まで必ずつける必要のあるものです。iGEMも例外ではありません。
もしも他の人が出したデータを、参考文献として引用せずに自分の論文に載せてしまうと「データを盗んで、自分が出したデータかのように扱った」と言われても文句は言えません。
参考文献をもれなくつけることは研究者の基本的なリテラシーの一つで、絶対におろそかにしてはいけないポイントです。
同時に、自分のチームのwikiや自分の論文を読んでくれた人にとっては「なんでこう言いきれるの?」「もっと知りたい」ときの命綱となる情報でもあります。
未来のiGEMerや研究者のために、参考文献は正確にもれなくつけましょう。
参考文献の書き方のマナーは分野や雑誌によって違うようですが、それはまた別の記事でまとめます。
はい!
前回と今回で2019年のiGEMで金メダル(および2つの部門賞ノミネート)を獲得したiGEM Kyotoチームのwikiを参考に、特に重要なDescriptionとDesignの読み方を説明させていただきました。
いかがだったでしょうか?
DesignはiGEMのプロジェクトの核をなす内容ですので、重要な情報が目白押しだったと思います。
英語が得意でない人にとってiGEMのWikiを読むのはちょっとハードル高いなあと感じられるかもしれませんが、「焦らず順を追って読めば案外いけるな」と感じていただけたら嬉しいです。
wiki読むの面白いので、これからも自分のペースでちょいちょい読んでいきましょう!
今日は以上です。
長めの記事でしたが、最後まで読んでくださった方は大変お疲れさまでした。
また次からは短めの記事をサクサク書いていくので、今度もまた読んでください。
iGEM Kyotoさん、ありがとうございました!!!!!!
【メモ】
今回の記事で「別記事で書きます」って言ったタイトルリスト
・PDB
・NCBI
・His-Tag
・参考文献